「就業時間の事を聞かれて、答えました。 またその時間に来ると言っていました。
山岡さん…大丈夫ですか?顔色が…」
「えぇ…大丈夫。そう。分かったわ」
いや、全然何も分かっちゃいなかったが…。
わざわざ彼のおじい様が会社まで出向くという事は、わたしの身辺を探っているという事。
というか、わたしと西城さんが付き合っているというのはバレている。西城さんがまさかわたしの身元を教えるなどとは到底思えなかった。
金持ちの考えている事なんて凡人の理解の範疇を超える。だから、彼のおじい様が考えている事なんて分からない。けれど、わざわざ会社まで来て、会いに来たのは事実だ。
そして彼がしようとしている話の予測は、何となくついた。そこまで鈍感ではない。
だから憂鬱だと言うのだ。わたしのような人間が、西城の家の人から良く思われるとは考えちゃいない。寧ろ政略結婚までさせようとした人物だ。わたしという存在は邪魔で仕方がないだろう。
でもまさか、会社までやって来るとは思わなかっただろう。
午後からの仕事は、捗らなかった。それどころか失敗を繰り返して、千田ちゃんに心配される始末。
仕事の事に頭が回らない位、西城さんのおじい様の事で頭がいっぱいになってしまった。
彼に相談するべきだったのかもしれない。けど、それはしなかった。余計な心配はかけたくないと言うか…。わたしはわたしなりに伝えなくてはいけない事があるような気がしたんだ。
時間が進むのが偉く遅く感じた。何度も時計を見てはため息を落とし、針が全く動かない事に時計が壊れてしまったのではないかと思った。
結局仕事中は彼のおじい様が訪ねて来る事はなかった。
けれど業務を終え、着替えて千田ちゃんと一緒に会社を出ようとした時だった。



