「それにしても本当に嬉しいよ。大輝くんがまさか恋人と私の旅館を選んでくれるとは」
「小さかった時ですが、記憶の中で忘れられない事ばかりで…
それに、父も母も…夢かぐらを1番愛した旅館だと言ってました」
「それはまた嬉しい。西城くんも、お母さまもお元気ですか?
特にお母さまとは小さな頃から親交があってね。あの頃はよく一緒に遊んだものだよ」
「はい、元気にしています…。今度は、是非家族で一緒に来れたらいいとは思ってますが、中々時間も合わずに」
「それはそれは是非、久しぶりにお会いしたいものです」
「あの、西門さんにひとつお訊ねしたい事があるのですが……」
その言葉に、西門さんの優しい瞳は小さく揺れる。
「小さな記憶で曖昧ではあるのですが…
この旅館に訪れた時、僕がきっとあなたに訊ねた事があると思うんです。
人は何故ホテルに泊まるのか?と。それに対し、あなたは、歩み入る者にはやすらぎを、去り行く人にはしあわせをという言葉を教えてくれたと記憶しています。
そして、ホテル業界がいかに素敵な仕事だという事を教わったと思うのですが」
その言葉に、西門さんは目を丸くした。
うーん、と暫く考える素振りをした直ぐ後に思い出したかのように「あぁ」と少しだけ頬を緩め、答えた。
「それを言ったのは、私ではないです」
「え…?」
記憶が確かならば、柔らかい笑みを浮かべ優しくそれを教えてくれたのは、この人であった筈だ。



