「えぇ…」

「そうか。今時期の北海道は冷える。暖かくしていきなさい」

「はい。」

「もし時間があれは今度家に彼女を連れて来なさい。お母さんもきっと喜ぶ」

喜ぶ、とは思えなかった。産まなきゃ良かったと思っている息子の恋人を連れてきたところであの人が嬉しがったりする姿は想像出来ない。

それどころか煙たがり、美麗に失礼な態度でも取られたら堪らない。父のその言葉に、返事は返さなかった。

相変わらず読めない男だ。

会話はそれで終了かと思い、パソコンのディスクに目を落とすと彼にしては珍しく美麗の事を詮索してきた。

「どういったお嬢さんなんだ?」

「どういったと言われても、普通の会社のただの受付嬢ですよ…。お嬢様でも何でもない。
父親は大きくもない…小さな建築会社をしています。普通の家庭の普通の女性です」

「そうか。いいじゃないか」

何が良いのかはいまいち分からない。けれど、あの日言っていた言葉にどうやら嘘はないようだ。

俺の選んだ女性ならば、それで良いと言った父のあの言葉。 

しかし父がいくらそう言ったとして、祖父はそうもいかないだろう。

自分に目をかけてくれていたのは分かっていた。だから自身が選んだ最良の伴侶を用意したい気持ちは分かる。けれど、そこの所はもう譲るつもりはなかった。祖父の思惑通りに動くつもりはない。

午後19時、粗方仕事を終えて美麗の家へ向かおうと社内を出ようとした、時だった。