「無理に、あの女を家に入れたばかりに……。他に良い縁談が山ほどあったというのに…
あんな女と結婚してしまったばかりに」

蔑むような瞳をして、唇を噛みしめた祖父を見て、また疑問が頭を過る。

父もまた、母とは政略結婚をしたとばかり思っていた。

いや、そうでないと辻褄が合わない。愛のない夫婦だと思っていた。祖父が決めた結婚相手だから、父はあまり家にも寄り付かず、母もまた心の病気になってしまったのかと

「それでも僕の気持ちは変わりません」

「お前がどれ程相手方の女性を好きであろうが
お前の結婚と西城グループは切っても切り離されないものだと理解しておきなさい。
いずれ、私の言っていた言葉を理解出来る日が来る。
話はそれまでだ。行きなさい。
祐樹はもう少しだけここに残っておくように」

「はい……」

力ない父の声が響いた。




どうしてこんな時に過去の記憶が蘇るのだろう。

’人は何故ホテルに泊まるの?家があるのにへーんなの’

’歩み入る者にはやすらぎを、去り行く人にはしあわせを、という言葉がある。
わたし達の仕事は出会えたお客様に自分の出来る限りのおもてなしをし、安らぐ時間を与えるものだ。
そしてお客様にとってもここで過ごした日々がかけがえのない記憶になって、いつか思い出した日にポッと心に灯るような優しい思い出になっていて欲しい。
わたし達の仕事はそんな素敵な仕事なんだよ’


あれを言ったのは、夢かぐらの支配人だったと思う。

ぼやけた曖昧な記憶。何故この日思い出したかは、分からない。