「生意気を言うな」
決して大きい声ではないが張りのある彼の重い言葉が室内に響く。
「篠崎リゾートとの事業がなくなったとて、西城グループに何ら問題はない。
しかしお前が何を考えているのかは分からん。菫さんが気に入らないのであれば、違う縁談を用意しよう。
お前に相応しい女性はこの世の中に沢山いる」
「いえ、それは遠慮させていただきます」
はっきりとそう告げると、祖父は眉間に皺を寄せ難しい顔をする。
「僕には、心に決めた女性がいますので…」
「ほう……。
菫さんからも伺った。どうやら大輝には心に決めた女性がいる、とな。
私は別にお前がどんな女と遊ぼうと構わん。けれどそれは結婚するまでだ。
しかし結婚となれば別だ。どんな女か素性も分からん人間を西城家にいれるのは、決して許さない」
「…だから僕は結婚さえも自由は与えられないと言う訳ですか?」
祖父の眉間の皺がぴくりと動く。
「お前は西城家の跡取りだ。その辺のただの女性とは結婚させられないと言う事だ。
きちんとした家柄のお嬢さんとそれなりの結婚をしてもらわないといけない。
そうでないと……そこにいる男と同じ事になってしまう」
顎をくいっと上げ、祖父の視線が父へと移る。
変わらず父は下を向いたまま、けれどその表情に困惑の色が映る。
けれども父は決して口を開く事がなかった。