彼がわたしを持てなそうとしてくれた事は、素直に嬉しかった。

けれど…この大きなマンションは、西城さんとわたしの格の違いをまざまざと見せつけられるだけだ。

劣等感だらけの自分は嫌になるけれど、やっぱり自分は彼とは不釣り合いの人間なのだと痛感させられた。


大きな窓に手をつけたら、暗くなった東京の街に明かりが灯る。

本当に嬉しかった。彼が家に招待してくれた事も。わざわざ美味しいお菓子をわたしの為に用意してくれた事も

もう2度と訪れる事がないかもしれない場所から、こんな素敵な景色を眺める事が出来た事も。
だから素直に’ありがとう’と口に出来た。


わたしは、口が悪いけれどあなたのぶっきらぼうな優しさが、とても好きよ。 心の中でそう思っていた時だった。

彼が、わたしを抱きしめたのは―。

とても混乱していた。彼の腕の中にすっぽりと包まれたら、尋常じゃない程心臓の鼓動が速くなっていって体温が上昇していくのが分かった。

顔を見つめるのも躊躇った。

今自分がどんな顔をしているか、鏡で確認したい程、真っ赤にはなっている筈だ。そんな顔を見せたら、きっと彼は不敵な笑みを浮かべわたしをからかうだろう。

けれど、見上げた西城さんは全く笑ってはいなかった。それどころかどこか真剣な顔つきで、切れ長の一重の瞳を真っ直ぐこちらへ向けた。



そして抱きしめた先から感じる彼の鼓動も、心なしか速く感じた。自分の心臓の音だったのか、彼の心臓の音だったかは、重なり過ぎて分からない。

こちらを直視する彼の視線からは、何故か逃れられなかった。

まるで時間が止まってしまったかのように、体は硬直したまま動けなくなり手の先は氷のように冷たい、けれど体温だけはどんどんと上がっていくのを感じた。

沈黙を打ち破るかのよう、先に口を開いたのは彼だ。そして彼の口からとんでもない言葉が出た。