雪は料理中ずっとわたし達の足元をウロウロしていた。
人にくっつくのが好きな猫。人に素直に甘える事が出来る猫。
火を使い始めると’危ない’と言われ彼に無理やりゲージの中に入れられると、不服そうな顔をしてゲージの中から大きな黒い瞳でジーっとこちらを見つめていた。カリカリと爪とぎをしてみたり、切ない声で鳴いてみたりしたけれど、出してもらえないと分かった瞬間、諦めて体を丸めて寝始めた。
ビーフストロガノフが出来たとの同時に西城さんがゲージから雪を出すと、嬉しそうに彼の手の中に収まってぺろりと頬を舐めた。
西城さんも「お前は可愛いな」と雪に話を掛けている。…あぁ、わたしも雪だったらいいのに。猫だったら素直に彼に抱かれ、甘える事が出来るだろう。
雪のような素直さも可愛げも一切持ち合わせていない女。
考えれば考える程空しくなるばかりで、どうしたって叶いもしない恋心を彼に向けてしまったとしてもそれはきっと悲しい結末。
もう、あんな想いをするのは嫌だ。どうしてわたしは、自分を好きになってくれる人を好きになれず、いつも叶わない恋を選び取る事しか出来ないんだろう。
ビーフストロガノフは想像していたよりもずっと美味しかった。
けれど何故かいつものような食欲は無かった。それを彼も見抜いたのだろう。カシャン、と金属音が重なり合う音が鳴り彼の手に持っていたスプーンがガラスの容器の中落ちる。
眉を少しだけ下げて、こちらの顔色を伺うような目をした。ソファーに丸まって眠る雪も、心なしか心配しているように見えた。



