彼の言葉に、首を横に振る。

確かにあのワンピースは素敵だったけれど、あれはわたしには似合わない。分不相応だわ。

そう考えたら、彼から貰った靴だって、わたしにはきっと似合わない。綺麗に磨き、大切にしてきた物だけど、途端にくすんで見えた。

わたしって駄目な女ね。比べたって仕方がないのに。生まれながらに土俵の違う人間だって事は知っているのに。わたしはわたしでいい。この靴に相応しい人間でなくたって、自分だけは自分を見捨ててはいけないって何度も言い聞かせているのに。

それでもどこまでも完璧な彼女を目の前にすると、劣等感でいっぱいになるの。

「西城さん」

「何だ?」

「昨日の事はお互いに忘れましょう」

その言葉に、彼の眉がぴくりと動いた。

「わたしもあなたも大人だし、そういう夜があるのは仕方がない事よ。
それに気を遣ってもらって申し訳ないんだけど、わたしもあなたの事なんてちっとも好きじゃないし、気持ちがないのならあんな行為はなかった物と一緒よ。
あれは事故だったの、不慮の事故。きっと誰も悪くなんかない。だからお互いの為に忘れましょう」

きちんと笑顔は作れていたと思う。

口の中が甘い物で広がっていって、少しだけ気分が悪い。

ズキンズキンと胸を打つ痛みは、さっきよりも大きくなっていった。

「でもッ」

そう言った西城さんは頬杖をつきながら、ゆっくりと視線を落とした。

「…アンタがそれでいいって言うのなら、それで良い…」

そうこれで良かったのだ。

あなたが気にして、責任を感じる事等何ひとつない。わたしとの間にあった事なんて、あなたにとってはよくある事。馬鹿な女が寄ってくるのも、いつもの事。

だから忘れていい。

けれど、自分の心に嘘をついたから、わたしの心はボロボロだった。

どこか、痛くて、切ない。

でもそんなもの、彼の気まぐれに勘違いして、有頂天になって後で傷つくより…よっぽどマシだわ。

わたしと彼は、始めから違う世界の人間なのだから。