「簡単に言わないでよッ。
あたしは大輝が思ってるような人間じゃない。
大体お前らしいって何よ、あたしの事なんてこれっぽちも分かっちゃいないくせに
あたしはね…すっごく汚い人間なの。風俗をしてて体も汚れてりゃー心までどす黒いの。
山岡さんなんて大嫌い。あんなに可愛くて、性格だって良くて、ハルじゃなくても山岡さんの事好きになる男の人は沢山いるのに
なのに何でハルなの?何でも持ってるなら…あたしからハルを奪っていかなくたっていいじゃない。
あたしは山岡さんとハルの幸せなんか願えない
だけど……それじゃあ惨めになるからって…自分で自分を惨めにしたくないから、どんなに辛くても笑っていようって
可哀想なんて人に思われたくなかったから―――――」
彼女の本音は汚くて、惨めで、非常に清々しかった。
真っ赤に染まる瞳から、大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちる。それでもそれを拭おうともせずに、頬を濡らしていく。
やっぱり、俺は、お前の素直な所がとても好きだ。そう思った瞬間、頭を数回ぽんぽんと撫でていた。これはいつか、琴子が…俺が疲れていると言った時にしてくれた事だ。
あの時は琴子の手の温もりが伝ってきて、ストレスや疲れつーもんが吹っ飛んだんだ。アレは今でも魔法だと思っている。だから、今度は俺の手が少しでも君を癒せたら良い。
それでも彼女の涙は留まる事を知らない。そっとその柔らかい頬に触れ、何度だってその涙を拭ってやる。きっと俺にはその位しか出来ない。
「俺から見た井上晴人のイメージを言ってもいいか?」
「大輝から見た…?」
「あいつはきっととろくてふわぁーとしていて柔らかいマシュマロみたいな奴で
頼りなくて、生真面目で几帳面で男のくせに全然男らしくない。不器用で…言いたい事も呑み込んじまうような男だけど
でも意外に芯はしっかりしていて、大切な物はきちんと分かっていて、それを大切に出来る奴だ。
怒りつー感情あるのかないのか分かんない奴だけど
そんなあいつが怒りの感情で動く時ってのは、必ずそこにお前がいる」



