車に乗せ、直ぐにアクセルを踏むと、琴子の身体がびくんっと跳ね上がった。
暫く車内は沈黙が流れ続けて、ステレオから流れる洋楽だけがリズムよく響く。
きっと彼女は、俺に怒られると思っているに違いない。ビクビクと肩を震わせて、時たま顔をそーっと覗き込んでくる。
ぎろり、と睨みつけると、彼女は再び肩を揺らし、小さくうずくまる。だから君はどうしてそんなに可愛いと言うのだろうか。きっと俺に怒られる、とか、冷たい言葉を投げかけられる、とか想像を膨らませて悶々としているのだろう。
ちっとも怒っちゃいなかったんだが、そういう反応が面白かったりするので、もう暫くは意地悪をしといてやろう。
適当な場所で車を駐車させ、彼女の方を向くと、下を向いて唇を尖らせて拗ねた表情を覗かせた。
「隼人から聞いたよ、仕事は辞めるって」
「店長の、おしゃべり…」
「それが俺の為だと言うのなら嬉しいんだがな。
どーせ、井上晴人の為なのは一目瞭然だから、何か複雑だな」
「何よーあたしの事嫌いって言ったくせにー
どーせあたしは自分の気持ちも伝えずに人に八つ当たりばっかする子供ですよぉーだ」
尖らせた唇が段々への字になっていって、また下を向いて大きなため息を吐く。
「俺は琴子の凛とひとりで立ってる姿が好きなんだが
誰に何と言われても自分っつー奴を持ってるお前が魅力的だと思ってたから
この間の琴子は全然琴子らしくなかった。
そんなにあの女に嫉妬しちまうくらい好きならば、さっさと気持ちを伝えろ」
「やだ!絶対に嫌
何回も言うようだけど、それだけはしない」



