「分かった。直ぐに向かう」
「あぁ頼むわ、じゃあな」
彼女は花見の一件以来、俺の連絡さえフルシカト状態だった。
恥ずかしかったのだろう。大人げなくあんな醜態を周りに晒せば、誰でもどこかに逃げたくなるってもんだ。
「おい、家出娘がよぉ?」
相変わらず殺風景な事務所だ。デリヘルの事務所つーのはまぁきっとこんな感じなのだろうが。どこかアンダーグラウンドな匂いがする。
テーブルの上にはごちゃごちゃと何か積み上げられているし、それはこの業界でいうオプション品の数々だろう。投げ出されているさまを見ると、衛生面を思わず心配したくなる。
机の上には電話とパソコンがあって、丸椅子に座った隼人が雑誌を読んでいた。俺の姿を確認すると丸椅子をくるりと回し、やれやれといった表情をする。
当の琴子は、中央に置かれたソファーで丸まり、頭からタオルケットを被ったままだ。…それで隠れていると思ってるつもりならば、お笑いだ。
いくら小さきお前でも、全ての身をすっぽりと隠せる物は、この事務所に完備されちゃあいないだろう。タオルケットのまんま、子猫を掴むように首根っこを掴むと、「虐待だよ!」とピーピーギャーギャー喚く。
そっとソファーにおろし、それでも無理やりタオルケットを奪い取り、琴子の手を掴み無理やり歩き出す。隼人は雑誌に目を落としたまんま、手だけをひらひらと蝶のように揺らした。
「裏切者ぉーーーーッ」狭い事務所内に、琴子の悲痛の叫びだけが響いた。



