【完】淡い雪 キミと僕と


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琴子が、井上晴人との同居を解消すると決めた6月。それは丁度彼女が彼と同居を始めて1年だ。

彼女はそれと同時に風俗嬢を上がると、決めた。中々の決心だとは思う。普通の昼職では、決して手の届かない給料。それを何年も続けてきたというのならば、金銭感覚が麻痺してしまっていても可笑しくはないのだ。

そうやっていつまでも這い上がれなくて、この業界に留まり続け壊れていく女を沢山見てきた。と隼人は言う。

何度も言うが、隼人は基本は優しい人間なのだ。

女を食い物にして金を稼いでる、とは本人も認めちゃあいるが、その女の幸せを誰よりも願っていたのも、隼人だったような気がする。

奴の考えは俺の理解の範疇を超えてはいたが、口では文句を言いながらも琴子が辞めるという事にはとても喜んでいた、ように俺の眼には見えた。

花見で美麗と琴子が揉めた一件があって以来、隼人情報で「ココが事務所にこもってて敵わん」と聞いた。

また井上晴人と揉めて、家へ帰るのをボイコットしている訳だ。その日も隼人から電話が掛かってきて、琴子が事務所にいるのを確認した。あいつがいるようなら連絡をしてくれ、と言ったのは俺の方だった。

「あぁ、もしもし大輝?
おう、ココなら事務所にいるぞ。邪魔くさくてかなわん、何とかしてくれ」

「そうか、やはりお前の所にいたか、至急迎えに行く」

「早めに頼むな。迷惑している」

電話口で「ギャー」と琴子の叫び声が聴こえて、隼人と何か揉めているようだった。

どうせ、俺に電話をするな、とか、隼人の持っている携帯を奪いあってるのだろう。目には見えないが、その騒々しさで何となく予想はつく。