選手が米粒のように小さく見える席で、無理やり美麗パパが推しのチームの青と白のユニフォームを無理やり被せてきた。
…なんというダサさだ。
そしてビールを買って手渡してくる。
「僕、お金払いますよ…。ユニフォームも」
「子供が気を遣うなって!」
チケット代も、ユニフォーム代も、ビール代も、全て受け取ってはくれなかった。
彼は俺を子供扱いするのだ。心外だな。あなたよりは稼ぎもあるし、立派な社会人だ。
…でも、素直に嬉しかった。彼の気持ちは何よりも温かかっただろう。
互いのチームの応援歌が始まると美麗パパはノリノリで歌い、’ほら、お前’もと肩まで組んでくる。
…実に面白い人だ。そして、こんな大勢の人間との一体感を味わうのは、初めての経験だった。
「行けー!安田ー!」
「いいぞ!いいぞ!ナイスピッチング!」
「行ける!行ける!」
「頑張れーーーー!!!」
ドラマチックな展開もなく、結局試合は負けた。
だけど、とても楽しい時間だった。周りの全く知らない他人と、何かを応援する事でここまで気持ちがひとつになれるとは
どちらかといえば冷めた人間だった自分も、いつの間にかその熱気に影響されていた。隣で応援していた美麗パパは勝っても負けてもどこか嬉しそうで、一緒に飲んだ球場でのビールは、とても美味しかった。
「どうだった?初野球観戦は」
「すごく楽しかったです。あんなに熱気があるものなんですね。
会場全体が揺れている感じがしました」
「だろう?やっぱテレビ中継で見るよりも生で見る方がいいよ」
「そうですね。僕は元々そこまで野球に興味のある人間ではないのですが、すっかり夢中になってしまいましたよ。
それに、チケットとか…ありがとうございました」
「何もだよ…」



