【完】淡い雪 キミと僕と


「だってあり得ないでしょう?
あたし、風俗嬢ですよ?
ハルがそういった女性を選ぶような人だとは、あたしは思いません」

自嘲気味笑う彼女の瞳がほんの少し寂しく感じた。

彼女が夜の仕事をしている事。きっと水商売ではなく、風俗関係だという事。何となく予想はしていた。

そんな風に自分の事を想っていた事、自分は井上さんに相応しくないと苦しんできたのだと。彼女の気持ちを考えると、涙が零れそうだった。

そんな事まで言わせてしまう自分は酷い人だ。

小さく下を向いて「ごめんなさい」と謝る。どうしてこんな事を彼女の口から言わせてしまったのだろう。どんな職業であろうと、どんな人間であったとしても、彼女はきっと1番に井上さんの事を考えている筈。

そして彼の事を思って、その想いさえも告げずに彼から離れる事。わたしは、そこまで強くなれない。


コーヒーカップを持つ指が僅かに震えた。

指先から、そして全身にかけて、ありえない程震えていた事だろう。体が芯から冷たくなるのを感じていた。

落とした視線の先、真っ黒に染まった液体がゆらゆらと揺らめいている。向かい合っていた琴子さんは、震えるわたしの指に小さな自分の手を重ねた。

それはとてもとても温かい手だった。

顔を上げると、泣きそうな彼女が精いっぱいの笑顔を作っていた。それはまるで、優しく見守る月のように。

「ハルはあたしにとって恩人のような存在です。
そんなハルの良い所をちゃんと分かってくれる、山岡さんのような女性がいてくれて良かった。
何て言うか、あたしが言うのも変だけど、ハルの事よろしくお願いします。
ハルにこんな綺麗な人勿体ないと思うけど」

わたしには、きっと言えなかった。自分の想いが叶わなくとも、相手を深く想える。

そして、恋敵にこんな優しい言葉をかけれはしないだろう。

あぁ、本当に失恋したのだと思った。どれだけ足掻いたとしても、彼女の彼を想う温かい気持ちには敵わないと――



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