【完】淡い雪 キミと僕と


琴子さんが出してくれたコーヒーを真ん中に挟み、暫しの沈黙が流れる。張り詰めたような緊張感の中、重い口を開いたのは、わたしの方だった。

「勝手な事とは思うんですが、井上さんに用事があると営業部の方に言って住所を聞きました。
彼の家なんて、わたしは知らないので。
ちょっとストーカーみたいですね、わたし」

「そんな……」

「晴人くんではなく、あなたに用事があったので。
今日晴人くんが会社に出勤してるのも本人から聞いているので、わざとその時間を狙ってきました」

わたしはいつもいつも自分を飾ってばかりだった。

かっこ悪い自分を人に見せるのを嫌った。情けない姿を晒すのは恥とさえ思っていた。

でも、もう、彼女の前で自分を偽るのは嫌だった。

「単刀直入に聞くのですが、琴子さんは晴人くんの事をどう思っているんですか?」

彼女の視線が右や左、忙しく動くのが分かった。

「どうって……」

「わたしは、晴人くんが好き」

そうハッキリと告げると、やっと彼女はわたしへと視線を向けてくれた。大きいとはとても言えなかったけれど、切れ長のその瞳は、琴音猫を思い出させた。

暫くわたしの顔をぼんやりと見つめた後、それを逸らし、段々と斜め下へと視線は移り変わっていった。そのさまは、正しい答えを探しているようにも見えた。

「あたしは…
ハルとは事情があって同居してるだけのただの同居人だから…
ハルの事をどう思ってるか聞かれたとしても、ただの同居人としか答えようがありません。
山岡さんがハルの事をどう思おうと、それはあたしには関係ない。
それにもう一月もすればお互いに違う家に引っ越しますので…
山岡さんが思っているような関係ではありません、あたしたちは…」