「ごめん。
琴子の代わりは、この世界にはいない」
途中まで涙が溢れ出そうだったけれど、井上さんのその言葉を聞いてふっと笑顔がこみ上げていくのが分かったの。
心が温かくなっていって、ここまで真剣にぶつかるわたしへ、井上さんはきちんとした答えを出してくれた。正真正銘必死に頑張って恋をして、そして失恋をした。
そして、もうひとつだけ確認と謝罪をしたい人がいた。
彼を抜きにしても、わたしは彼女にもう一度会いたかったのだ。高橋琴子という人間をきちんと知っておきたかったのだ。
会社で勝手に住所を調べて、彼が休日出勤をしてる日をわざわざ選んだ。
だって、お互いがいたら、彼らは自分の本心を語らないと分かっていたから。
だからこそ確認したかったんだ。
インターホンに出た彼女はカメラ越しにわたしの姿を見たろう。偉く混乱していたように思える。
当たり前だ。けれども彼女に話があると言うと、快く家へ通してくれた。
家の中にいた彼女はスッピンで部屋着の黒のスゥエットを着ていた。
金髪の長い髪はボサボサで毛先が傷んでいた。そして分厚いメイクを落とした彼女の素の顔は偉く幼かった。
特別可愛い人ではなかったけれど、華奢で小さなその体は抱きしめたらなくなっちゃいそうな程細くて、しゅんとしていた。
目が合い微笑むと、彼女は更に眉を下げて落ち込んだような表情をした。
リビングにあったキャットタワーからは、息を潜めてあの琴音猫がこちらを伺っていた。
なんだ?何しに来た?この部外者が、と言った所だろうか。
それでも出会った時のようにフーシャー威嚇するのではなく、静かにこちらを見守っていた。



