【完】淡い雪 キミと僕と

好きなくせに。どうしてそんな事を言えたのよ。今となっては少しは彼女の気持ちも分かるんだけど。

わたしはその日、彼にまだ好きだという事を伝え、ゆっくりでもいい、わたしの事も考えて欲しいと、そう言ったら彼はまた曖昧な笑顔を作ったんだ。

そしてその後すぐ、6月に入って、井上さんはわたしを食事に誘った。何となくだけど、そこで何を告げられるか想像はついた。

電話でもメールでもなく顔を見てちゃんと、そういった所はとても誠実な彼らしい。そんな誠実な所を好きになった。


彼が誘ってくれたのは、全く彼らしくない東京の夜景を一望できる素敵なレストランだ。

本来であるのならば好きな人に誘われた食事。しかも素敵なレストラン。嬉しくて舞い上がってしまうところだったが、偉く冷静な自分がいた。

彼がこれからわたしへ告げる事を粗方予想は出来ていたし、その予想はきっと覆らないだろう。

「山岡さん、俺やっぱり」

「山岡さんとは付き合う事は出来ない」

それでも一度や二度、諦められないくらいしがみつく恋があったっていいじゃない?
 
お皿の上には、キラキラとしたデザート。

バニラアイスとチーズケーキ。

ベリー系の果物に紛れた真っ赤なソース。

女の子が好きそうな物が散りばめられていた。でもね、こんな物じゃなくって、こんな特別な物でなくて、わたしはあなたと何気ない日常の中で笑い合える資格が欲しかったの。


「別にこんな高価なレストランじゃなくてもいい。
あなたのあの家じゃなくてもいい。わたしはあなたに、もっと本当のわたしを知って欲しい。
あなたと一緒に暮らして、琴音ちゃんに好かれる努力もする。
琴子さんの代わりでもいい。一緒にいるのわたしじゃダメですか?」