琴子の気持ちも分からなくはないが、あの態度と無礼な言葉は無い。いや、こういう状況を作り出してしまった井上晴人はもっと無いのだが。
彼女へと苦言を残し、美麗を追いかけた。あの男が美麗へ優しさを投げかければ投げかけるほど、苦しい想いをするだろう。
中途半端な優しさなど、人を傷つけるだけ。だから、彼を引き止め、俺が美麗を家まで送り届ける事にした。
何でそんな勝手な事をするのよ?!と彼女はもしかしたら怒りだすかも、とも思ったけれど、心底安心したような顔をして「助かった…」とだけ言い素直に車に乗った。
送り届ける車内の中で、不気味なほど彼女は静かだった。
車内から流れる洋楽と、静かなエンジン音が響き渡るだけ。
てっきり、’何ー?!あの女ー?!’とか、’ブスの癖にムカつくー!’等と愚痴を言いだすものかと思いきや、まるで借りてきた猫のように大人しく下を向いたまんまだった。
時たま何か思い悩んだように大きなため息を吐き、ぐちゃっと自分の頭を掻きむしる。
暫く経って、思いもしなかった事を口にした。
「申し訳ない事をしたわ…」
悪い奴ではない。この時は既に分かってはいた事。でもここまで真面目だとは思わなかった。
「ごめんなさいね、あなたにまで気を遣わせる形になって…。
あなたに家まで送ってもらうなど、心外なんだけども助かったわ。彼に慰めの言葉なんてかけられたら、もっと自分が惨めになっていたかもしれない。
役に立つなんて思った事は一度たりとも無いけれど、今日は助かったわ。どうもありがとう…」
毒を途中途中孕んでいたのは、今日の所は聞き流しておくことにしよう。
素直に謝罪と感謝を述べる彼女の言葉に、嘘は全く感じられなかったから。



