【完】淡い雪 キミと僕と


けれども今日の彼女は全然彼女らしくなかった。

終始不機嫌で。俺は琴子が好きだからそんなの何の問題はなかったけれど、皆が居る場での出来事だ。無理に楽しそうにしろとは言わない。だが時には空気を読む事も必要だろう?

しかし、彼女のそんな不満を大爆発させたのは、誰でもない鈍感な井上晴人だった。

花見を終えた後に、美麗が発端で、井上晴人達の家に行こうという話になったらしい。あの可愛くない琴音猫に会うのはごめんだったが、皆を送って行くと言った手前それに付き合う羽目になる。

仕方がないなぁ、と言ったら井上晴人はあからさまに嫌な顔をした。俺が来るのだけは嫌なんだろう。

しかし、彼が琴子に行こうと声を掛けた瞬間、まるで今日1日の鬱憤を晴らすかの如く大爆発だ。


’琴音を見たいなんて口実やないの?!’
’港区女子なんて男漁りをしてる’
’ただの尻軽やないの?!’


それは美麗に対して向けられた、ちっとも彼女らしくない下らない嫉妬だ。

無論、そんな事を心の底から思っているとは思わなかった。ただの八つ当たりだ。けれども、言われた本人はしょんぼりと肩を落として、少しだけ震えていたようにも見える。

先程までヘラヘラと笑っていた井上晴人は今までに見た事ない程怒りに満ちた表情をし、一言だけ’謝れ’と琴子に冷たく言い放った。

その空気に耐えきれなくなった美麗は、笑いながら謝罪の言葉を並べ、逃げるようにその場から去ろうとした。それを追いかけたのは、井上晴人だった。