「まぁ途中までですが……」
「それは仕事中、という事でしょうか?」
「あぁそうだね」
「それじゃあそれは嘘ですね。
彼女は仕事中であれば絶対に本番はしないと言っていましたから。
というかそういった下らない事であれば僕には関係ないので失礼させていただきます」
驚いた事にこの生真面目そうな男が、琴子の仕事に理解を示し、そして彼女のプライドを尊重していたのだ。
それが少し悔しくて、ちょっとだけ意地悪を言った。
彼女との間にあった好意を事細かに彼へ伝え、優越感に浸ろうとした小さく惨めな男の、愚かな嫉妬心だと思ってくれていい。
人の顔というのは、怒りでここまで歪むものなのか、と思う程、彼の瞳が、眉が、口元がぐにゃりと変な方向へ歪んでいく。
止めろ、聞きたくない!と言い手を振り払った井上晴人の表情は怒りに満ち満ちていた。
そんな俺と井上晴人のやり取りを、受付にいたひとりの女が心配そうに見つめていた。
それは、あの日パーティーで知り合った、馬鹿女のひとりの美麗だった。俺を通り過ごして、彼女の視線の先、井上晴人が映っていた。
その夜、一通のメッセージを受信した。
月の綺麗な夜だった。
下を見下ろせば、東京の夜景を一望できるのに、黒い空にぽっかりとただ一片塗りつぶされたような真ん丸の満月に目を奪われた。
あの電話以来、美麗からの連絡を受信する事はなくなった携帯。久しぶりに、俺と彼女を繋いだものは、何の因果か、井上晴人その人だった。
『会社に来ていたようですが、井上さんとはどういった関係で?』
『アンタには関係のない話だ』
『いえ、関係あります。私はあの人がとても好きなのだから』
お笑いだ。まるで面白くはないバラエティー番組よりかはよっぽど笑えた。
間違っても、港区で男漁りをしていた女が吐くような言葉ではない。けれどあのプライドの塊のような女が、素直に人を好きだと断言したのは驚きだった。
そこから、再び繋がりたくもない縁は繋がってしまう事になる。
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