抱きしめた右手は温かかった。
その頃の琴子は何かに傷ついていて、もうどうにでもなれと言った感じで俺に抱かれても良いという雰囲気を醸し出していた。
こういった女が自暴自棄になる時など、そこに男が絡んでいるのは間違いないと知っていた。
優しく彼女の身体をなぞると、直ぐに反応してくれた。抱き合っている時も、彼女は俺から一切目を離さなかった。そういう所も大好きだった。
猫なんて琴音だろがどんな猫だろうが同じだ、と言った俺に対して、彼女は少しだけ考えて、また自棄になり「そうかもね」と言った。
’あんたの言う通りかもね。
あたしの猫なんかじゃ…ない…。
いつか別れが来る…’
あくまでも、琴音猫は井上晴人の物であって、琴子はいつだっていつか来る別れの日に怯えていた。
それは琴音猫と別れる日が辛いのか、それとももっと別の理由があったのか。
こんな俺でも、彼女の想いなど痛い程伝わってくるのだ。誰のための笑顔だったか、涙を落とす日は誰を想っているのか、自分の中にある感情が爆発する時は誰か関わっている時だったか。
俺は琴子に何でも用意する事が出来る人間だ。
女が欲しいと思う物の大概は用意出来る。
高級タワーマンションも、素敵なバックも靴も、可愛らしい洋服も、そして琴音にそっくりな猫だって探そうと思えばいくらでもいただろう。
そんな俺にでも、用意出来ない物がこの世でただひとつあった。



