【完】淡い雪 キミと僕と


近づくと、顔だけ少し出して、鬼のような顔をして「シャー」と威嚇した。

ちっとも可愛くはない。全く可愛げがないこの生き物を、琴子は可愛いと言い、井上晴人は進んで飼っていると言うのか?!

この頃の俺には猫を可愛いとは到底思えず、生き物を飼うという行為自体理解に苦しんだ。
特に、こんな可愛さの欠片もない猫はな。



人の家に我が物顔で居座り、井上晴人という男を上から下まで観察する。琴子は物凄く迷惑そうな顔をして、口を結ぶ。

社会人らしく名刺交換をして、井上晴人の素性を知る。これで営業か。全く営業出来るようなタイプには見えないが?!そして、勤める会社はまあまあ一流企業だった。

しかしとて、俺と比べれば、天と地の差だ。全く持って相手にはならない。

格が違い過ぎる。図体だけはやたらとデカい気の弱そうな男を、心の底から見下していた。




この男にならば、勝てる。いや、勝ち負け以前に試合をする必要もない。

どう考えても俺の方が魅力的だ。容姿だって負けてはいなかったし、何よりも社会的ステータスは自分の方がずっと上だ。

しかし、琴子はどうやら違うようだった。

俺の、お金やステータスになびかなかった、唯一の女。

デリヘル嬢を辞めろと言っても、嫌だと言い、都内の高級タワーマンションを用意したと言っても、ちっとも嬉しそうではなく

それならば、そんなにもあの可愛げの欠片もない琴音猫が好きだと言うのならば、新しい猫を飼えばいいと言った。何匹でも、君が望むならば、どんな珍しい種類の猫でも用意してあげる、と。

少しだけ軽蔑したような眼差しを向けられ、琴音の代わりはいない、命を物扱いする人は軽蔑する、と一蹴された。