【完】淡い雪 キミと僕と


「俺がまだ小学校の低学年の時だったかな。
もうずっと治らない病気だってのは分かっていたんだがな…。父の母親。つまりは俺にとっておばあちゃんに当たる人だ。
それでも入退院を繰り返していて、家にいる時は俺の話をいっぱい聞いてくれる人で、なんつーか、菩薩ってのはああいう人の事を言うんだろうな。
俺はおばあちゃんが大好きで、小さいながらもおばあちゃんが病院から帰ってきて家にいる日は嬉しくなったもんだ」

「アンタっておばあちゃんっ子だったの、意外ね。子供年寄り動物って類は苦手そうなのに」

やっぱり、幼い子供の顔。

大好きだったおばあちゃんの話をする時は、こんな子供のような顔をするなんて。

視線は落としたままだった。けれど口元を僅かにあげて、その薄い唇の口角が上がると、懐かしむように愛しむように、大切な宝物の話をするように穏やかな口調で彼は続けた。

「話を聞いてくれる、母親はいなかった」

母親はいなかった。

その言葉にごくっと唾を飲み、言葉を探してみるのだけど喉元まで出かかって、それを止めた。

だって何かを言ってしまえば、子供のような顔をする彼を傷つけてしまうような気がしたから。その様子を汲んでか、彼は少し困ったように笑いながら「違うんだ」と口にした。

「母は、生きている。誤解をさせるような言い方で申し訳ない。
ただ俺の母親つーのは少し心の病気でな…。上手に子供を愛せるような人じゃなかった。
父親も家にずっといるようなタイプの人間じゃなかったから、使用人みたいな人はいたけど、身の回りの世話をしてくれるだけでな
だから自動的に俺の何でもない下らない話を聞いてくれるのは、おばあちゃんだけだった。
本当に優しい人だったよ。まぁ祖父が亭主関白を絵にかいたような人間だったから、そうならざる得なかったんだろうか」

「そう、なの…。」