「死ぬの?!死んじゃうの?! と、アンタからあの日電話で言われた時は物凄く驚いた」
「え…?」
パッと顔を上げたら、西城さんは訝し気な顔でこちらを見つめてきた。
嫌だわ。
こんな時に何故かあのクリスマスの事を思い返してしまって、死んでしまいたいとたった一度の失恋で本気で思ってしまったなんて、馬鹿馬鹿しい。
…けれど、馬鹿馬鹿しい程初めて好きになった人だった。
「何だ、ボーっとして、憎まれ口を叩いたりボーっとしてみたり忙しい女だな」
「うっさいわね、で、なんなの?あの日の電話って何の話よ」
「雪の様子がおかしいって、アンタ混乱して俺に電話してきて、死ぬの、死んじゃうのって言った言葉
昔、俺もそんな言葉を言ったなぁと何故だかあの日思い出してな…」
珍しく、彼は真面目な顔をしていた。考え込むかのように額に拳をあてて、少しだけ苦しそうに顔を強張らせた。そんな彼の弱々しい姿を見るのは初めてだった気がする。
この人はいつだって冷静で、生意気で強気で…雪が死にそうになってる時も獣医の話を淡々と聞いて、そして時折心配そうにこちらの顔色を伺っていた。
でもそうさせてしまったのは、わたしだったかもしれない。
あの時の自分は今思えば恥ずかしい程取り乱していた。子供のように泣きじゃくり、周りを困らせて、それでも溢れ出した悲しみや不安の感情は止まりはしなかった。
この人は、そんなわたしを優しく抱きしめてくれた。そんな彼が、怒られた子供のように少しだけ視線を下に落とし、ぽつりぽつりと話し始めた。



