【完】淡い雪 キミと僕と


リクエストしたのは水族館。

THE・ベタといった定番のデートプランだとは思うが、幼き頃から水族館は好きだった。あの夏でもひんやりとした空気、薄暗くライトアップされた空間の中で、カラフルな色をつけた魚たちが揺れ踊る。

青白い水槽は何時間でも見ていられそうなくらい幻想的だ。

現実主義者である自分が、まるで夢の世界のような場所を好きだなんていうのは、少し笑えるけれども。

一緒に行ったしながわ水族館は、とてもロマンチックで幻想的な造りだった。

人の手から、何故こんな素敵な物が造り出せるのかと思う程。まるで小さな東京の夜景のようだった。室内なのにそのような雰囲気を出せるのは、素直にとてもすごい事だと感心した。



ジェリーフィッシュランプル。

だだっ広い空間の中に、クラゲが漂う丸い柱がいくつも輝いている。ライトが点灯するたびに、ピンク青緑赤。様々な色が反射する。

そこには、柔らかそうなクラゲたちがゆっくりとふわふわ浮かぶ。

隣でそれを優しい眼差しで見つめた井上さんは、’このクラゲって山岡さんみたいだな’と言う。それって褒めているの?と訊き返すと、彼は少し焦った風に目を数回瞬かせて「褒めているよ」と言った。


茶色のチェスターコートは、長身の彼によく似合っていた。

水族館の美しさもさることながら、そこに映し出される彼の繊細なシルエットもとても美しいものだと思ったものだ。

数回食事を重ね、休日のデートもした。敬語も自然に取れてきて、お互いの名を苗字ではなく名前で呼び合おうと決めた。

けれども彼はちっともわたしを’美麗’とは呼んでくれなかった。