「わたしって恥ずかしい…。先生の優しさも汲み取れなくて、あんな子供みたいな八つ当たり染みた事しちゃって…」

「別に金に困っちゃいねぇから、入院費なんぞ幾らでも払ったがな。雪が助かるのであれば
けれど、折角の好意だ。甘んじておくことにする。たまには人に何かをしてもらうのも悪くはない。
アンタも雪が元気になったら、高級菓子折りのひとつやふたつ持っていってやれ、あのお人好し獣医と奥さんに、な」

「そうね。そうよね。それに雪に会いたかったらいつでも病院に来て良いって言ってくれたし…
毎日でも通いたいくらいだけど…」

「俺も出来るだけ会いに行くようにするよ」

こちらをくるりと振り返った美麗はもういつもの生意気そうな顔に戻っていた。

こちらを一瞥したかと思えば、すぐに下を向いて眉毛を下げて、思いもしなかった事を口に出した。

「ありがとう」

「え?」

「アンタが居なかったら、わたしパニックになってどうしていいかきっと分からなかった…。
もとはと言えばわたしがちゃんと雪を見ていなかったからなんだから…
西城さんがいてくれて良かった。本当に、ありがとう…」

心に温かいものがともっていくのを感じた。

それは、とても大切な物で、まるであの獣医夫婦から感じた優しさともとても似ていて
元は、俺が無理やり預けた猫で、君の大嫌いな猫であったはずなのに、あんなに雪の事を考えて、雪の為に泣ける人間だったなんて。

あいつはきっと、君に会えて幸せだと思う。世界一みすぼらしく、世界一幸せな猫だ。

君の中にそんなに温かい感情があるから、だから柄にも無い事を言ってしまったんだ。

「アンタは優しい人間だ」

大きな目がパッと見開いて、頬にほんのりと赤みがさすのが見えた。そして直ぐに照れくさそうに両手で顔を隠すんだ。誤魔化しになんかなっちゃいねぇぞ?俺の目は誤魔化せない。

照れた隙間から、めくれた優しさが、どこまでも冷たかった俺の心を温かくさせた。それは間違いない。

この感情に名前をつけるとしたら、優しさ以外は思いつかなかった。