身振り手振りで雪の可愛さを伝えようとする美麗。

そして再び思い出したかのように泣き出す。今朝から涙腺ぶっ壊れっぱなしだな。

こりゃ、獣医の意図する事を汲み取ってはいなさそうだ。

「馬鹿だろ。だからあれは建前上の話だ。
病院を一応は経営してるんだ。無償で猫を預かるわけにはいかないって話だ。他の患者の手前示しがつかねぇだろ。
それでもあのチビを引き取ってくれた俺たちに恩義を感じてるから、あの人たちは無償で雪が元気になるまで預かってくれるって言ったんだ
少しは人の気持ちを汲み取れッ、馬鹿女ッ」

「そうなの…?」

馬鹿な女のあほ面。

馬鹿女つーのは聞こえなかったみたいか。それとも反論をしてくる元気もないと取るか。

けれどさっきまでの涙は途端に引っ込んだと見える。それはそれで安心だ。笑った顔で泣くのも嫌だが、取り乱して世界の終わりって顔をして泣かれるのは、もっとしんどい。

お前のような女は意地悪な顔をして、俺の言葉に反論して怒ってるくらいが丁度良いだろう。

また不覚にも抱きしめてしまって、俺の手が腐ったら困る。

…だから、安心していて欲しい。

「そういう事だったの…?
わたし、奥さんに酷い事言っちゃった…」

「ぴぇーって泣いてな。何を言ってもぴぇーって泣いて、先生たちも随分困っていただろう。
恥ずかしい女だな、子供みたいにぎゃんぎゃん泣いて、返してーって。あの時のアンタの顔はかなりあほ面だったぞ。
こっちは笑いを堪えるのに必死だ」


さっきまで下がりっぱなしだった目尻が、徐々につりあがっていく。

顔を真っ赤にして、眉をしかめ口を結び、こちらを睨みつけてくる。

…そう、お前はそれで良い。

フンッと顔を背け、窓に眼を向ける。 雨は先ほどよりも強くなっていた。

窓ガラスにぼんやりと映る美麗の表情は、ぼんやりとしていて今にも消え入りそうだった。