「何、アンタ……」
「受付の女じゃん?山岡の後輩の」
「山岡さんは優しい人です。わたしの仕事のフォローもいつもしてくれて
外見も綺麗な人だけど、中身も綺麗な人です。こうやって陰で悪口しか言えないあなたたちよりはよっぽど」
「何、マジで怖いんだけど。山岡の信者か何か?」
「行こ行こ。うざいっての、ブスが」
パタパタとトイレ内から出ていく女たちの足音が聴こえたけれど、手にかけた鍵はどうしても開けられなかった。
指先が震えていた。
じんわりと体が内側から熱くなっていくのを感じた。指先が震えていたわけではないのだ、体全体が震えているのに気づいた。
それなのに、眼の縁はじんわりと熱い。ぐっと力を入れなくては、涙が零れ落ちてしまう程には。
陰口には慣れている。
女から良く思われないタイプだって事も知っている。…でも、曇りなき程透明な、優しい言葉を掛けられる事には慣れていなかった。
わたしを庇ってくれたのは、間違いなくあの声は、受付の後輩の千田ちゃんだった。
わたしが見下して、自分よりずっと格下の女だと見ていた女だった。
暫くトイレの椅子から立ち上がれなかった。少し時間が経って戻った後、千田ちゃんは既に受付の椅子に座っており、来客の男性と楽しそうにお喋りをしていた。
そしてわたしに気づくと何事もなかったかのように「あ、山岡さん!仕事で聞きたい事があって」とあの曇りなき透明な声と同じ柔らかい笑顔をこちらへ向けた。
どこにでもいるような女。さっして特徴もない。
平凡な女。きっと平凡な男と結婚して、平凡な生活を送って行くような女。
そしてきっと、平凡な幸せを掴める、そんな女性だった。
平凡は、ありふれているものではない。掴めそうで、掴めない。選ばれた女にしか用意されていない。
そしてわたしは、幸せに選ばれない女だった――
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