少しだけ抜けた、惚けた男だと思ったもんだ。
しかし、それから彼とデートを重ねて、彼の話を聞いていくうちに、知らなかった彼の一面を知るうちに、少しずつ自分の中の何かが変わっていく感覚に陥った。
北海道出身だという彼は、真っ白な雪のような濁りのない心を持っていた。
大層な話はしていない。どこにでもある、日常の話ばかり。
でも彼の話を聞いていくうちに、北海道のどこまでも広く広大な大地は目の中に浮かんでいったし、家族の話をしている彼のキラキラとした瞳を見て、愛されて生きてきた人間だという事は分かった。
美しい容姿をしているのに飾ったところは1ミリもないような人で、一流大学を出て一流企業の総合職として働いているのに、自分を大きく見せるようなところはひとつも見当たらなかった。
それどころか突き抜けに優しくて、きっとこういう男は誰にでも優しいのだというのに、それは自分だけにでは?と勘違いしてしまう程には優しくて。
最初は明らかにこちらに好意のある好みの男をからかってやろうといった愚かな感情だけだったのに、一緒に過ごす時間の中に木漏れ日のような安らぎを感じている自分がいた。
そんな温かな感情がまだ自分の中にあったなんて、驚いた。
インスタでキラキラした日常を綴りながら、ツイッターの裏垢では悪口ばかり。
裏表のある自分。どこかで鬱憤を晴らさないと、いつだって足元から崩れていきそうだった人間関係の中で井上さんの存在は、自分の中でいつの間にか希望になっていった。



