井上晴人とは何度かデートを重ねた。
容姿はぴかいちの癖にどこか冴えない所がある男だったが、連れて行ってくれるレストランは女心をばっちりと捉えているようなお洒落な場所ばかりで
そこは意外だった。
女性が喜びそうな場所になど疎そうな男だったのに、わたしが望んでいる場所へ連れて行ってくれた。本来の自分が本当にそんな場所を望んでいたかといえば、それはまた別の問題になるのだが
港区で過ごしているうちに、お洒落なレストランで美味しいご飯を食べている自分が好きだった事に気が付いた。
インスタのネタにもなるし、自分はどれだけ素敵な時間を過ごしているか、それを他者に見せつける格好のネタにもなった。
ワインなんて好きじゃない。シャンパンの味なんてこれぽっちも分からない。
どちらかといえば大衆居酒屋で生ビールを飲んでいる方がよっぽど美味しい。
コンビニだって利用するし、ファストフードのようなジャンクな物の方が高級レストランで出てくる食事より口にあった。
けれどお洒落で飾り付けられた料理を写真に写す事は一種のステータスだったし、自分はこんな生活をしている選ばれし人間ですよ。と見せつけたかった。
…馬鹿馬鹿しい。それでも止められなかった。
最初の食事で井上さんは大阪出張のお土産だと’たこ焼きキーホルダー’を渡してきた。
一瞬びっくりして、言葉を失って、変な顔をしてしまったと思う。
これは何のギャグ…?そう言いかけて、目の前に座る井上さんの笑顔が余りに眩しすぎて、思わず笑顔を取り繕った。
このわたしが、たこ焼きキーホルダーを本気で喜ぶとでも思ったのだろうか。それでもそれ可愛いっしょ。と目を輝かせる井上さんを前にして、こんなの好みではないとは言えなくなってしまっていた。



