私を濡らしていた雨を感じず、不意に見えた靴を見て私はやっと顔を上げる。
そこには傘を持った結月が立っていた。
不倫関係を切って孤独と向き合いその現実に泣いている私の姿を結月はどう思ってみているのだろうか。
それでも泣き止めない私を結月は見つめた。
その瞳が眩しくて私の視線はまた下に移る。

 傘の中に私を入れる結月の優しさを素直に受け止められない私は口を開いた。
「こんな大人の姿。幻滅するでしょ。自分がまいた種で苦しむ。あなたと違って私は汚れた道を歩いてきた。あなたと違う。もう私は……」
 泣きながら言う私を優しい温もりが包む。
それが結月の胸の中だと気づいてもそこから離れられなかった。
ゆっくりと結月が私の頭をなでる。
何も言わない。
でも、結月の胸の中は温かくて今まで鍵をかけていた感情があふれ出た。
私は結月の中で泣いた。声を出して。
傘を捨てて両手で私を包んでいる結月の体は濡れている。
その濡れた服を力いっぱいつかんでいる私がいた。

 涙が止まって私と結月は家路を歩いた。
雨が上がった夜空の下。
私は先ほどまで感じていた温もりが忘れられなかった。
「ありがとう」
 一言私はつぶやいた。小さな声だった。それでも結月はその声を聞き逃さない。
「素直じゃん」
 笑って見せる顔に少し安心している自分がいた。
「それは本当に思ってるから」
 笑うことのできない私は少しうつむいた。
「じゃあ、今度デートして」
「え……」
「約束ね。じゃあね」
 気づくと結月の家に着いていた。
返事をする間もなく私の前から去る結月の姿を黙って見ていた。
それはきっとあの優しい温もりのを忘れられなかったから……