「主が、私に狩りをさせてくれればよい」


「それは駄目」

もつれながら、薔薇をいけた花瓶に歩み寄るサジェス。

薔薇を一本取ると、おもむろに口元に近づける。

「輪が破れることは、避けなければ」

薔薇の花弁は、みるみる枯れていき、
くたりと頭を垂れ、葉が落ちた。

サジェスはそれを放り投げる。


「私だって、一応自制はしておるぞ」


煙管の煙を強く吸い込み、万姫が言う。


「故郷に居た頃も、なるべく狩りはせず、何人か人間をさらってーー飼っていた」

「それは初耳だ」


「一族しか知らぬからな。
順番に心臓を食いーー人間の心臓は主の様に再生せぬからな、食いっぱぐれるものが必ずおったわ」

「それで、あんたの一族の過激派が、
狩りを?」


新たな薔薇を手に取るサジェス。

どこか軽蔑を含んだ、冷ややかな口調だ。

万姫は負けず、ふてぶてしく答える。

「ーーああ。私が先頭にたった」


蒼い煙は、くるくると花瓶に巻き付き、緩やかな余韻を残して空気に溶け込んだ。

「それで納得」

再び枯れた薔薇を投げ捨て、ふっ、と笑みを浮かべたサジェス。

ちらりと、青い犬歯がのぞく。


「主の番か」