「よかったな、成瀬! おい、もう成瀬を泣かせるなよ?」
最後にそう宣言してから、この場を去っていく今野くん。
「なんだよ、あいつ……」
隣でぶつぶつ言いながら唇を尖らせる千景くんは、わたしの肩に置いた手に力を込める。
「綾乃も、今野に対して申し訳ないとか思う必要ないから」
「あ、でも、好きになってくれたし……断るのって、心苦しくて」
「『なってくれた』って……言い方。俺にとっては不安のたねでしかないんだけど」
「え?」
「綾乃は流されやすいし、強く言われたら断れないだろ。ほだされて俺以外の男に目を向けたらどうしようっていう不安」
千景、くん。
そんな風に思ってたんだ。



