変愛中


「しっかし、彼氏の前では可愛くいたいね〜..」

「かわいくなりたいって思うのはどの女の子も1度は思ったりするでしょ?愛寧は藤平さんの前では可愛い子でいたいの!」

手を組んで理想の彼女像を語っていく。主にはなんで可愛くありたいか、だが..


(こんなに思ってくれる彼女ができるっていいよな、航平め!そりゃ日曜日もドタキャンするわな!)

語る愛寧を温かな目で見守る。まさに親戚のおっさんのようだ。生ぬるい視線に気づいたのか、一気に覚めた顔をした愛寧は見事な低音ボイスを出す

「なに気持ち悪い目で見てんだよ..,キモ!」

「ひでぇ!」

「ほらっ!始めるよ!!」




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部活動終了時刻になり、学校を出た。
みんなと家の方向が違うので、1人で家に帰る3年間1人で帰り続けたから寂しくはない。ただ、冬だと真っ暗だから怖いけど....

今日は下校時刻ギリギリになったので他の部活は帰っていたけど、いつもならもっと早い時間に帰れてサッカー部の練習がちょっと見れたりするんだけど...

今日はもう帰ったみたいだった。

足元を見て、とぼとぼ帰っていると家の近くの公園からボールが当たるような音が聞こえてきた。

(..?こんな時間に遊んでるの?)

腕時計を見ると午後6時をすぎていた。まだ5月で完全に暗い訳では無いが、子供がこの時間までいてはいけない。


親はいるのだろうか..そう思って公園に入っていくと、ブロック塀に向かってボールをける人影が見えた。
小学生以下の背格好ではないから、中学生以上であることは確かだが..

(もしかしたら、藤平さんだったりして〜、なんてね!家の方向が真逆だし、こんなところにいるなんてないない!さっ、帰ろ!)

回れ右をする時、足元にあった空き缶を踏み潰してしまい、静かな路地にグシャと場違いな音が響く。

(うぎゃ!やば!!)

いけないことをしてしまったような感覚に襲われ、さっきの人にバレないか後ろをそっと見ると、ボールを持ってこっちを向いていた。

(うわあああ,..)

急いで、逃げ帰り、走ってて後ろを見ると誰もついて来ていなかった。

「ほっ..,良かった、怖かったよ!もう!」

















翌日、登校中にふと昨日見た人を思い出した。顔は見えなかったが、ちらっと見えたシルエットは航平に見えなくもなかった。

(はあ...昨日の人誰だったのか気になっちゃうよ。でも、藤平さんかな...?そうだったら逃げて帰らなくてもよかったんだけどなぁ。)

実は走って帰る途中で航平と同じサッカー部の男子が缶ジュースを二本もってさっきの公園に行くところを見かけたのだ。航平と仲良くしてる部員なので、違うとも言い切れない。考えていくうちに学校についた。昇降口が開く前に学校について先についているうららと話すのが日課になっているところが、今日はいつもと違った。うららがいないのだ、その代わりに背が高い男子の姿が見える。
愛寧は立ち止まって近くにあった水道に姿を隠す。

(えっ、なんでこの時間にいるの??朝練?いや、でも今日はサッカー部の朝練じゃないはず。え??ウソ)

愛寧が戸惑うのも無理はない。なぜなら昇降口前で待っていたのは航平だったからだ。航平はバスケ部の朝練を昇降口前から見ているようだった。愛寧は一度大きく深呼吸をして、覚悟を決めるとずんずんと昇降口に向かっていった。航平は、近づいてくる愛寧に気づき、小さく胸の前で手を振った。

(はああああ...手を振ってくれてる。なんで?!やばい可愛いかっこいい)

愛寧も小さく手を振り返すと、航平の前に立つ。

「・・おはよ?」

「おはよ、なんで疑問形なの」

「なんとなく!」

ぎこちない挨拶をすると照れてきてお互いにはにかむ。

「どうして今日は朝早いの?」

「あー.. なんとなく気分でちょっと早く来た。」

「そっか....」

「桜田はいつもこんなに早いの?」

「うん、いつもは甘井もいるんだけど今日は遅いみたい」

航平はそっかと短く言うとそこから黙ってしまった。愛寧もなんて話出せばいいのかわからずお互いバスケ部の朝練を見る。ちょうどミニゲームが始まったようで、バッシュのキュッキュッと体育館の床を鳴らす音が聞こえてきた。素早くボールを取り、鮮やかに3ポイントを取った同級生を見て二人同時におおっと感嘆の声が出る。

「... すごいね、愛寧あんなシュートできない」

「俺も。あいつはほんとにうまいよな」

「でも、藤平さんもできそうじゃない?」

「そんなことないよ、サッカーも下手だし」

「ええ、そうかな?上手だと思うよ?あ、でも、キーパーなんだよね無図化しそうだね」


同級生のシュートから二人の会話の種がまかれ、サッカーの話、兄弟の話ヘを膨らんでいった。愛寧は、同級生に心の中で感謝して航平との会話を楽しんでいた。二人の会話は、昇降口が相手からも終わらず、二人並んで階段を上がり教室に入った。愛寧は席にカバンを置くといつものように掃除ロッカーに向かって箒を手にしたとき、手が止まった。

(あ、いつも通りに箒持っちゃったけど、今日は藤平さんがいるんだった...)

そっと箒を戻そうとすると、藤平が箒に疑問を持ってしまった。

「あれ、なんで箒持ってるの?」

「あっ、、いつも朝に掃き掃除だけしてるの、一応保険委員だしみんなにきれいな教室使ってほしいから」

「へぇ、すごいね、俺も手伝うよ」

そういうと、箒を取りに来たので、愛寧は心の中で驚きながらも箒を渡した。
















「手伝ってくれてありがとう、」

一通りはき終わったときに航平に言った。すると航平ははにかんで愛寧のそばに近づいてきた。

「いいよ、いつもやってくれてたんだって知らなかったし、ありがとう。」

二人で、掃除のために開けていた窓を閉めて今日の授業について楽しく話始めた。
ただ、そんな楽しい時間は教室に生徒が入ってきたのですぐに終わってしまった。
自然と離れていってしまう航平に一抹の寂しさを覚えながら愛寧は廊下に出て、うららのクラス、誠のクラスを順に覗いていった。うららは今日は休みなのかまだとうこうしておらず、誠はちょうどついたようでリュックをおろしていた。

「あずまあああ!!」

ドアから誠を大きく呼ぶと、誠は挨拶をしながら気持ち悪い笑みを浮かべながら近づいてきた。

「おはよう、愛寧ちゃん。航平との朝の時間はどうだったかな~」

「...あんたが仕組んだの?」

「なわけないじゃん。来た時にちらっと見えたの二人とも幸せそうな顔してたよ」


そういわれて、恥ずかしかったので愛寧は手に持っていたタオルで軽く誠の腕をはたいてみた。恥ずかしくてそむけた顔と視線の先にはちょど航平がいて、一瞬目があったが、すぐにそらしてしまった。