上司は優しい幼なじみ

恐らくフロアに戻るだろうから、間違いなくすれ違うだろう。
この場所で彼を見ると、やっぱりどうしてもあの瞬間を思い出してしまう。

全く…公私混同もいいところだ。

あの時、たっくんは倒れる山本さんを見て「美子」と呼んだ。

もし、私が今この場で倒れたら…?

こんなこと考えるなんて、社会人失格だ。
いや、人間失格だ。

資料を持つ手と足が少し震える。
近づく彼との距離。


…ごめんなさい。


「…っ!!!」

ドタッ!!

私は演技が下手だ。
ふらっと倒れこもうと思ったのに、足がもつれ思い切り転んでしまった。

幸いにも周りに人は少なく、この程度の視線だったら我慢できた。

「岡田さん、大丈夫?」

小走りで駆け寄ってきたたっくんは私に手を差し出す。
助けてくれた喜びを感じることもなく、山本さんの時のように下の名前で呼ばれなかったことを悔やんだ。

状況が違うにしても、少し悲しかった。
自分から起こしたアクションに、余計山本さんとの差を感じてしまったから。

こんなことするなんて…本当に自分は最低だ。