上司は優しい幼なじみ

担架を運ぶ救急隊員と、そのあとをついて行くたっくんを私も追った。
それに気づいたたっくんは珍しく淡々と言葉を言い放った。

「岡田さんはいいよ、もう帰りな」

ズキンと胸が痛む。いつも私に向ける表情ではなかったから。
でも、わかるんだ。さっき磯部さんには落ち着いた態度で仕事に戻らせたけど、本当は動揺してるんだ。
私だって呆然として何もできなかったから。

「山本さんは私の指導係なんです。このまま帰るなんてできません!」

「…っ」

それからたっくんは何も言わずに前を向く。
一緒に救急車に乗ると、彼の「美子」と呼ぶ声が何度も頭の中でループした。
’美子’は山本さんの下の名前。どうして彼女をそう呼んだのかはわからない。
もしかしたら別の言葉の聞き間違いかもしれない。