上司は優しい幼なじみ

するとたっくんは、笑いながら「違うよ」と続ける。

「笑顔に面影があったんだ。昔から、陽菜はちゃんと笑う子だったから」

その言葉に、私の感情と重なるものを感じた。
まだ彼がたっくんだとわかる前、’大川係長’の笑顔にたっくんの面影を感じた、あの瞬間。

「綺麗になったね、陽菜」

優しい目でそう言う。その表情があまりにも色っぽく、思わず目線を落とした。

「た、たっくんこそ…すっかり素敵な大人になっちゃってて、びっくりした。全然気づかなかったよ…」



注文した料理が運ばれ、ようやく食事が始まる。
なるべく音をたてないように意識しながらパスタを食べ進める。

「そういえば、たっくんは今どこに住んでるの?」

「車で30分くらいのK市で一人暮らししてるよ。陽菜は?」

このたった数秒の会話で、たっくんの住まいと、彼が現在独身だという情報を得ることができた。
ちらっと左手の薬指、念のため右手の薬指を見てみるが、光るものはついていなかった。