上司は優しい幼なじみ

「それって…さ、たっくんが海外に行くってこと?」

何も言わず、ゆっくりと頷いた。
その反応に身体が硬直する。
もう、一緒に仕事もできないし、簡単に会えなくなるということだ。

「う…そ。もう決定なの?私たっくんから何も聞いてない…」

彼の言い方からして、近いうちに辞令も発表されるのだろう。
離れてしまう不安と同時に、相談してくれなかった悲しさがこみあげてくる。

「ごめん。正直、断ることもできたんだ。だけどこの話、俺が入社して1年目の時に上層部に提案し続けていたプロジェクトで、ずっと水面下で話は進んでいて。この挑戦、どうしても受けたかった」

「たっくん…」

彼の、仕事に対する思いは理解している。
私が中途で入って彼と再会し、どのように仕事と向き合ってきたのか近くで見ていた。
でも、私が知るそのずっと前から、彼には夢や目標があったんだ。

それがすぐそこまで来ていて、実現しようとしている。

「決断する前に陽菜に言わなかったのは、申し訳なかったと思ってる。ごめん」

身体を私に向け、頭を下げる。
そんなことしてほしくない。謝らないで。

言葉にはできず、私は両手で彼の上体をゆっくりと起こした。

「私は…これからどうすればいいの?」

私自身の’仕事’の話ではない。
私たちの’未来’を問いたかった。