上司は優しい幼なじみ

「うん、ちょっとね…」

慌てたように読んでいたものを閉じて、横に置かれた本とまとめてカバンに押し込む。
こんな山本さんを初めて見たものだから、誤魔化す様子に疑問を持った。

その理由は、数日後にわかった。


久しぶりに仕事以外でたっくんとゆっくり話す時間ができた。
バーに誘われ、いつものカクテルを飲む。

最近の様子の変化に気づきながらも、あえていつも通りに振舞った。

「本当にここのカクテル美味しくて、毎回同じの頼んじゃうんだ」

「そっか。気に入ってくれてよかったよ」

たっくんはグラスを小さく回して一口飲み、テーブルにそっと置いた。

「…陽菜、話があるんだ」

「は、話?」

静かに、低いトーンでそう言った。
自然と背筋が伸び、次の言葉を待つ。

「近いうちに発表されるんだけど…うちが海外に家具専門店を展開するんだ」

「あ、それちょっと聞いたことがある。それがどうかしたの?」

新事業スタートは会社にとって挑戦で、尚且つ喜ばしいことだ。
告げる内容と彼のテンションが合致せず、その言葉だけでは何事か理解できなかった。

「それで…さ。実は俺、そのプロジェクトのリーダーに選ばれたんだ」

「…え!?」

落ち着いた雰囲気を壊してしまうくらいのボリュームが響き渡る。
肩をすぼませ、ふぅっと息を吐いた。