上司は優しい幼なじみ


*

気のせいだろうか。
最近、たっくんの様子が変だ。

一見普通に仕事しているように見えるのだが、ふとした時に一点を見つめる瞬間がある。
日高部長とよくフロアを出入りしているから、何か大変なことが起きてその対応に追われているのかもしれない。

なにせ、デートも仕事終わりの食事や飲みも行けていないくらいだ。

ちゃんとご飯食べているのかな、ちゃんと眠れているのかな。
そんな心配ばかりしている。

私はそっと立ち上がり、給湯室に向かった。
コーヒーを淹れて、たっくんのデスクに「お疲れ様です」と一言添えて置く。

「あぁ、ありがとう。すまないな」

笑顔を向けるたっくんだが、私にはその表情が少し固く見えた。

「最近お疲れのようですけど、大丈夫ですか?」

「ん、大丈夫。ありがとう」

業務中に深堀するわけにもいかず、歯がゆさを残したまま席に戻った。
これが時間外の出来事だったら、根掘り葉掘り聞いて無理やりでもご飯を食べさせていただろう。



お昼休憩から戻ると、山本さんが雑誌のようなものを凝視していた。
今見ているものとは別に、何冊か横に積まれて置いてある。

---オーストラリアでの暮らし方

「山本さん、オーストラリア行くんですか?」

「へっ!?」

驚かせてしまったようで、山本さんの肩が跳ねあがる。