上司は優しい幼なじみ

「わー、たっくん可愛い」

カブトムシを持って最高の笑顔でピースしている。
私は虫が嫌いだったから、その場から離れたいといったように、今にも泣きそうな顔で写っていた。

「陽菜さ、俺と一緒に遊びたいってよく言ってくれていて、俺が虫捕まえに行くとき泣きながらついてきたよな」

「あはは、そうだったかも。どうしても一緒にいたかったんだね」

幼いころから執念が凄い、私は。
子供とは恐ろしい生き物だ。
打算的な思考もなく、ただ純粋に、人生を楽しみ、子供ながらに恋していた。

「たっくん今でもカブトムシ捕るの?」

彼は一瞬キョトンとし、すぐに私の頭をワシャワシャと撫でた。

「捕らねーわ、さすがに」

「わわっ!また髪ぐちゃぐちゃにしてー…」

手櫛で整え、ムッとした表情を向けると、近距離でばっちり目が合う。
しばらく見つめあった後、引き寄せられるように唇を重ねた。

たっくんの胸元を掴みその先を求めそうになった時、彼は私の両腕を優しく掴んで体を離した。

「…ごめん、ここで止められなくなったらマズイからさ」

「たっくん…」

ふわっと私の体を包み込んだ。
その温もりと程よい香りに、全身の力がすっと抜けていく感覚に陥った。

下はやけに静かだ。先ほどまでの騒ぎは一体何だったのだろうか。
嫌な予感がしてドアの方に目をやる。
おかしい…ちゃんと閉めたはずなのに、少し開いているような気がする。