上司は優しい幼なじみ

お母さんの目線は私から後ろの人物に移り、その人を認識した途端私を横に突き飛ばし、手を両手でギュッと握った。

「拓海くん!?拓海くんなの!?」

母よ…久々に帰った娘よりもそちらですか…

ジト目でお母さんを見るが、全く気になっていない様子。

それよりも素敵な男性に成長した彼を、頭のてっぺんからつま先までじっくり観察している。

「お久しぶりです」

たっくんは、そんなお母さんにも笑顔を向ける。

「こーんなに大人になっちゃってー。陽菜から聞いたわ、若いのに係長なんですって?陽菜はちゃんと仕事してる?」

「お、お母さん…」

いつまでも手を握りしめているものだから、力づくで体を引き離した。

「…頑張っていますよ」

そう答え、優しいまなざしを向けられる。

最初は、たっくんの視界に入りたくて、まずは仕事で認めてもらえるように努力していたつもり。
それがいつの間にか、付き合っていたり、案の一部が採用されていたり、プライベートでも仕事でも充実した社会人生活を送っていた。

それは間違いなく、たっくんのおかげだ。

彼に認められたいという気持ちがなかったら、ここまで仕事を頑張ってこれていたのかもわからない。

「さぁさぁ、ちょうど唐揚げができたから、二人とも座って座って!」

嬉しそうに背中を向け、リビングに消えていくお母さんを見つめながら小さくため息をつく。

「ごめんね、たっくん…お母さんあんなんで」