「怒るわけないじゃん。そりゃ言いづらいよ。私でも言えなかったと思う」

「真由美ちゃん…」

「はっきりと断られて。駅まで送ってもらったんだけど、陽菜ちゃんに悪いことしたなーって思った。大川係長にも強引に迫って、本当に申し訳なくて…。陽菜ちゃんには言わないでほしいって懇願したの。私から直接、話すべきだと思ったから」

再び頭を下げる真由美ちゃん。
そのタイミングで料理が運ばれてきた。
店員は不思議そうに私たちを交互に見て、厨房に戻っていった。

「その場では大川係長と気まずくなっちゃったけど、仕事に影響させたくないから。あえて必要以上に声を掛けるようなことしたりしてたら、大川係長に言われたの。’今まで通りで大丈夫だから’って。さすがだよね」

真由美ちゃんは定食の漬物に箸をつけた。
私も続くように、食べ始める。

「久しぶりの恋だーって、楽しかったんだけどなぁ。まさかこんなにあっさり終わるとは。あ、でも陽菜ちゃんは気にしないでね!私ってそういう運命なのかもね」

寂しそうに笑う。
こういう時、何て声を掛けたらいいのかわからない。

「だから陽菜ちゃんも、今まで通り私と接してほしいんだ」

「もちろんだよ…」

彼女は「よかった」といつもの柔らかい笑みを見せた。
無理に笑顔を創っているのはわかっている。
でも、それが彼女の優しさだと思った。