上司は優しい幼なじみ

そう言われ、はっとなった。

確かに、ご飯を食べに行けば美味しいものが食べられるのが当たり前。
小売店に行けば笑顔で丁寧な接客をされるのが当たり前。
自分の暮らしにぴったりな商品が見つかれば、それもラッキーだと思うけど、わざわざそれを伝えることはしない。

’良いモノを提供する’ことが当たり前の世の中だからこそ、否定的な意見の方が目立ってしまうんだ。

「考え方が、少し変わりました。消費者として生活するときに、どうあるべきか」

「…それはいい変化だ。で、二つ目なんだけど」

急にたっくんの表情が暗くなった。
腕を組んだままで、少し威圧感がある。
ゴクリと生唾を飲み、その言葉の続きを待った。

「また俺のこと、避けてるでしょ?」

「うっ…」

やっぱりその話か…気づかれていた。

なかなか返事しないでいると、たっくんは浅くため息をつき頭をかいた。

「まぁ仕事のスピードが落ちたわけでもミスがあったわけでもないから、上司として君を怒ることはしないけど、明らかに様子が違う。この間も言ったけど、顔と態度に出やすいから。メッセージも既読無視だし」

「えっと…それは…」

色んな感情が混在し、言葉にするのに整理が必要だった。
かと言って、どこから話せばいいのかもわからない。

「…今日、一緒に帰ろう。駐車場で待ってる」

「い、いやっ」

被せるように否定した私に目を丸くした。

あの時、真由美ちゃんを助手席に乗せていたのに…今は乗りたくない。

「…わかった。この前のバーで少し話そう。あそこだったら落ち着いて話せるだろ?」

「でも…車は」

「俺は飲まないから。それでいい?」

「はい、わかりました」

たっくんはゆっくりとドアから体を離し、ドアノブに手を掛け開いた。
仕事に戻るように促され、私が先に出るような形で会議室を後にする。