上司は優しい幼なじみ

これ、昨日たっくんにハンコ貰おうと思っていた書類だ。
彼の方を見ると、今なら貰えそうだ。

’公私混同はしない’

これだけは絶対だ。

意を決して立ち上がり、たっくんの席まで向かう。


「…係長」

目が合った。反射的に逸らしてしまい、書類を目の前に差し出した。

「内容の確認とハンコ頂けますでしょうか」

「あぁ」

書類にさっと目を通し、重厚なケースから印鑑を取り出して押印した。
「ありがとうございます」と早口で言い、そそくさとその場を去る。

ひとまず、ミッション完了だ。



お昼休憩後、空になったカップにコーヒーを追加しようと給湯室に向かう。

「…っ」

先客…たっくんがいる。
がっつり目が合った。

「お疲れ」

「お…お疲れ様です」

何もせず帰るわけにもいかない。
本当はコーヒーのお代わりをしたかったが、ゴミ箱にカップを捨てて逃げるように出た。

あー…完全に避けている、私。
何回これでたっくんを困らせたよ。

はぁと肩を落とす。
同じことを何度も繰り返してしまう自分の未熟さに嫌気がさす。