上司は優しい幼なじみ


定時の終業チャイムが鳴る。
結局あれからタイミングを逃してしまい、書類にハンコを貰えることはできなかった。

チャイムが鳴ってからもたっくんは色んな人に声をかけられていて、私が入る隙もなかった。

急ぎではないから、また明日様子を伺ってみよう。


コーヒーカップを給湯室に片付け、ついでにマシンの魔法瓶も洗った。

席に戻り帰り支度を整え、フロアを出る。

歩いていると、今日は特に見慣れた組み合わせの男女の姿が目に入った。

「あれ…たっくんと、真由美ちゃん?」

二人ともカバンを持っていて、明らかに帰りだ。
どうして二人が一緒に…

少し胸騒ぎがする。距離をとって二人の後を追った。

ついて行くと、今自分がいる場所に驚いた。

いつのまにか、駐車場まで来ていた。


「え…」

私は間違えたものを見てしまったのかと思った。

たっくんの車の助手席に乗り込む真由美ちゃん。

表情まではよく見えないが、車内で何か会話をしている様子だった。

しばらくしてエンジンがかかり、車が動き出す。

「ちょっ…!」

あっという間に姿を消した。

力が抜け、手に持っていたカバンをごそっと地面に落としてしまう。

「え…どうして…」

どうして、あの二人が一緒に帰っているの?
何か約束でもあるの?

そこから家までの記憶がなかった。
ベッドの上で突っ伏し、呆然としすぎて涙も出なかった。