上司は優しい幼なじみ



終業後、駐車場でたっくんを待つ。
遠くから足音が聞こえ顔を向けると、時計を確認しながらこちらに歩いてくる彼の姿があった。

私を見つけると、笑みを浮かべて片手を上げた。

「ごめん陽菜、待たせて」

「ううん、全然」

車のキーを取り出し鍵を開け、中に乗り込んだ。
いつもと変わらないたっくん。
ただ私だけ、ずっと真由美ちゃんのことがモヤモヤと心に影となり存在している。

その様子に気づいたのか、シートベルトを締めエンジンをかけたたっくんは、心配そうな表情で顔を覗き込んだ。

「陽菜、何かあった?」

「あ、えっとー…そう言えばなんだけど、私たちの関係って社内の人に言っても大丈夫だったっけ?」

前に聞こうと思っていた疑問。結局聞けずじまいだったと思い出す。

「別に隠すことはないと思うけど?言いふらすべきとも思わないけど、必要だったら言えばいい」

「そっか…」

もし真由美ちゃんに、私とたっくんが付き合ってるって伝えたら、どんな顔をするのだろう。
伝えつつも、でも’諦めなくていい’なんて言ったら、何様だよってなるよね。

私はこれから真由美ちゃんにどう接したらいい?

「誰かに何か言われた?」

この様子だと、たっくんはきっと真由美ちゃんの気持ちに気づいていない。
二人で食事に誘われていたけれど、たぶんたっくんのことだ。
今までも同じような誘いが何度もあって、そこまで深く考えていないのかもしれない。