上司は優しい幼なじみ

「岡田さんはあっち行かなくていいの?」

その問いにゆっくり首を左右に振った。

「いいんです。最近話せていないし、あの輪に入ったって蚊帳の外だろうし」

「…何かあったか?」

決定的な何かがあったわけではない。
私の気持ちの問題だ。

真由美ちゃんの仕事ぶりを目の当たりにし、勝手に劣等感を感じている。
その真由美ちゃんがたっくんと意気投合していそうな雰囲気だから、尚更落ち込むんだ。

半田さんは私の目の先を確認し、何かを察したようだった。

「まぁ、仕事は仕事だからさ。会社で起きたことはあまり気にしないほうがいいよ」

「そう…ですよね。私ちょっとお手洗いに」

立ち上がった瞬間ふらついた。
二杯しか飲んでいないのにおかしい…

「大丈夫か?」

「へ、平気です。たぶんただの立ち眩みです…」
 
席を外し、靴を履く。トイレの前に列はできていなかった。
用を足してトイレから出ると、すらっとした長身の男性が道を塞いでいた。

特にその人の顔を確認しようとはせず、横を通り過ぎようとしたら腕を掴まれた。

「…陽菜、大丈夫か?」

顔を上げると、その男性はたっくんだということに気づいた。
こんな距離で会話するの久しぶりだ。

「ん、大丈夫です…」

「何杯飲んだ?」

「カシスウーロンとハイボール…」

「二杯か。前みたいにならないか心配だったけど、今日は大丈夫そうだな」

彼の顔をまじまじと見ると、本当に心配そうな表情で、話していなくても気にかけてくれていたことが嬉しかった。