上司は優しい幼なじみ

新しく買ったローヒールのパンプスで慣れない走りをしたせいで足元を滑らせた。

目の先に映る脱げた片方のパンプスが、遠くでぽつんと泣いているような気がした。

バカだなぁ…私。

足を入れ直し、ゆっくり立ち上がる。

後ろを振り返ってみた。
誰かが追いかけてくる気配はない。

「あ…」

たっくんと真由美ちゃんが並んでフロアに戻っていく。

私、一人で何してるんだろう…


「あれ?岡田さん何してんの?」

「半田さん…」

半田さんは私のひざ元を見て、驚いたように駆け寄り腰をかがめてその部分に触れた。

「ストッキング破れてるよ。転んだ?」

「あ、えっと…」

返答に困っていると、通りかかった山本さんもこちらにやって来た。

「ん?どうしたの?」

「あ、山本さん。岡田さん転んだみたいで、ストッキングが…」

山本さんの目線が私のひざ元に移る。

「え!?大丈夫!?私替えのストッキング持ってるから、ちょっと待ってて!」

行きかう人たちが何事かと興味ありげなまなざしを向けてくる。
何だか…恥ずかしい。
私もいい大人なのに、転んでこんなに注目されるなんて。

しばらくして山本さんが片手に未開封のストッキングを持って戻って来た。
手を引かれ、女子トイレに連れ込まれた。

「はい、これに履き替えてね」

個室に入り、破れたストッキングを脱ぐ。
思ったよりも穴が大きく開いていた。
確かにこれじゃあみっともない。


「山本さん、ありがとうございました。後でお金渡します」

「いいのいいの!気にしないで!どうせ買って全然使わなかったものだし!」

先ほどまでの虚無感が、山本さんと半田さんのおかげで薄れていった。
今度、何かおいしいスイーツでも差し入れしよう。そう思った。