「おー。あざーっす係長ー!この御恩は仕事で返しやすっ!」

上機嫌に敬礼ポーズをする。
たっくんは呆れたように肩を落とし、走り去るタクシーを見送った。

「俺らも行くか」

「そだね」

駅までの道のり。
短い距離だけど、手を繋いで歩く。

子供のころ手を繋いだことはあったけれど、こんなに大きくてゴツゴツしていなかった。
隣を歩くたっくんの顔を見上げて幸せに浸っていると、視線に気づいたのかチラリとこちらを見た。

「ん?どした?」

「あ、いやっ。半田さん、凄かったね」

「たまーにネジ外れるとああなるんだよな。陽菜も結構凄いけど」

私の醜態を思い出したかのように笑いながら言う。
今日は冷静に半田さんを見ていたけれど、私もああいう感じなのか…
気を付けよう。

「急遽の飲みだったけど、楽しかったなー。あんなオシャレなバー初めて入ったよ」

「初回で緊張して、あんま飲まなかったろ?」

そういわれてみれば確かに。
自然とセーブできていた気がする。

「陽菜は今後、行っていいのバーだけだな」

「え!うそ!?」

「嘘」

手を繋いだまま軽く体当たりをした。

こんな幸せが、ずっと続けばいいのに…

この先起こることなんて予想もせずに、漠然と、そんなことを思っていた。